三叉神経痛
三叉神経痛とは?原因と特徴を解説
三叉神経とその役割
三叉神経は顔の感覚と噛むための筋肉の感覚と運動を司っています。
その名の通り、三つの枝(眼神経、上顎神経、下顎神経)に分かれています。
特にこの神経の根本、脳幹から出た直後の部分(Root Exit Zone:REZ)は、三叉神経痛の主な原因となる圧迫部位です。
三叉神経痛の特徴と症状
三叉神経痛は、片側の顔に電気が走るような激痛が繰り返し起こるのが特徴です。
特に頬や下あごに痛みが出ることが多く、笑う、話す、食事、歯を磨く、冷たい空気が顔に当たる、洗顔、髭剃りなどの日常的な動作だけでも起こってしまう、たいへん厄介な病気です。
一旦、痛みが起こるとしばらく痛みが起こらない時間帯があり(不応期)ますが、痛みがひどい場合には痛みが持続的になってしまったり、顔が引き攣ってしまったりすることもあります。
唇や頬などのトリガーゾーンに触れるだけで激痛が走るため、QOL(生活の質)を著しく低下させます。
三叉神経痛の発症頻度とリスク層
日本では人口10万人あたり4〜27人が発症し、一生のうちに経験する人は約0.2%と推定されています。
典型的な三叉神経痛の発症平均年齢は53歳、二次性三叉神経痛は43歳で典型的な三叉神経痛の方が高齢ですが、若い人から高齢の方まで幅広く見られます。
女性にやや多い傾向がありますが、若年者や高齢者にもみられることがあります。
三叉神経痛の種類と原因
典型的三叉神経痛の原因と診断
最も多い原因は、REZに動脈が接触・圧迫することによって神経が刺激されるものです。
頬や下あご、口の中に痛みが出ることが多く(三叉神経第2・3枝)、まれに両側に痛みが出る(3~5%)こともあります。
痛みの特徴は、数秒から2分以内の突然の刺すような短い痛みで繰り返されます。
時折10〜20分程度症状が続いてしまうこともあり、さらに重症になってしまうと痛みが持続的になり激しい痛みのために体が動かせなくなってしまい、日常生活が送れなくなってしまう場合もあります。
また典型的三叉神経痛の約75%では痛みを誘発するトリガーゾーンが存在すると言われていて唇の周りや鼻、頬などに多く、顔を洗う、歯を磨く、髭を剃る、食事をするなどの日常動作によって痛みが誘発されてしまいます。
また三叉神経痛と同時に唾液が分泌する、涙や鼻水が出る、痛む場所が赤くなるなどといった自律神経症状が伴うことがあります。さらに痛みが出る時に顔が痙攣してしまうこともあります。
三叉神経痛が中年以降に多く発生するのは、加齢に伴って動脈硬化が進行し、動脈の壁が固くなり蛇行や屈曲が強くなるためだと考えられています。
MRI検査にて三叉神経の根本に血管がぶつかっていることが診断の重要なカギになります。
通常の撮影方法では三叉神経周辺の血管まで描出することが難しいため、三叉神経痛が疑われる際にはMR cisternography(T2 drive/Heavy T2)と呼ばれるMRIの撮影方法を用います。
二次性三叉神経痛とは
腫瘍(髄膜腫や表皮腫など)、血管の奇形(動静脈奇形AVM)、帯状疱疹、自己免疫疾患(多発性硬化症)、外傷などによって三叉神経が障害される場合、二次性三叉神経痛と呼ばれます。
三叉神経痛全体の20%程度が二次性だと言われています。
やはりMRIやCT検査(場合によっては造影が必要)によって診断します。
場合によっては造影剤という薬を使用してMRIやCT検査を行い、より詳しく調べていきます。
痛みが持続的で、刺すような痛みよりも焼けるような、絞られるような痛み場合があります。
両側に症状が出たり、感覚が鈍くなることも特徴です。
二次性三叉神経痛の場合は典型的三叉神経痛のように痛みのためにしゃべれなくなったり食べられなくなってしまうことは少ないと言われています。
しかし一方でしばしば感覚が鈍くなります。
痛み以外にも痺れや温度を感じにくいなどといった感覚の異常が起こる場合や両側に症状があることが知られています。
特発性・帯状疱疹による三叉神経痛
MRI検査でも原因が特定できない場合は、特発性三叉神経痛と診断されます。
帯状疱疹ウイルスによって三叉神経が障害され、痛みが残ることもあります。
この場合、痛みはビリビリ、ズキン、焼けつくような感覚として表現されることが多いです。
時間が経つと痒みとして感じることもあります。
帯状疱疹によって三叉神経が障害される確率は10〜15%程度とされており、そのうちの80%は三叉神経の第1枝領域、つまりおでこや目の周りの領域に起こりやすいとされています。
三叉神経痛の治療法について
内服治療(飲み薬による治療)
第一選択薬はカルバマゼピン(テグレトール)です。
神経の興奮を抑える効果があり、多くの患者さまで症状の緩和が期待できます。
副作用として眠気、眩暈、ふらつきなどが比較的高頻度で見られる他、稀に血液の中の細胞が減ってしまう汎血球減少や皮膚のアレルギー症状を引き起こす場合があるので定期的に血液検査をする必要があります。
また他の薬との飲み合わせが悪い場合があるため注意が必要です。
副作用や飲み合わせによってカルバマゼピンが使用しにくい場合や効果が不十分な場合にはラモトリギン(ラミクタール®︎)やバクロフェン(ギャバロン®︎)、プレガバリン(リリカ®︎)、ガバペンチン(ガバペン®︎)、フェニトイン(アレビアチン®︎)などに変更したり追加したりします。
しかし、カルバマゼピンがこの中では最もエビデンスが多く、第一選択となります。その他のいわゆる痛み止めは三叉神経痛には効かないことが多く使用は勧められません。
注射
A型ボツリヌス毒素をお顔の筋肉内に注射することで痛みを和らげる方法があります。
効果は3-6ヶ月程度持続しますので、繰り返し注射を行う必要があります。
医師の中でもボツリヌス毒素を取り扱う資格が必要で、注射に慣れた先生に外来で行ってもらうのが良いでしょう。
またリドカインという麻酔薬を点滴で投与することで三叉神経痛が軽減することもできます。外来では難しいため入院した上で治療を進めていきます。
神経ブロック療法
飲み薬で効果が得られない場合や副作用や飲み合わせの問題で使用できない場合には神経ブロック療法が検討されます。
神経ブロックとは局所麻酔薬や高周波熱凝固を用いて感覚神経を遮断する方法で、神経節と呼ばれる三叉神経の中継点を目掛けて注射を打ちます。
この治療は主に麻酔科やペインクリニックで行われます。
手術療法(微小血管減圧術)
MRIで神経の根本を圧迫する血管がある場合には、圧迫している血管を物理的に動かしてしまうことで痛みを根治できる可能性があります(微小神経血管減圧術)。
耳の後ろを開いて神経に接触している血管を移動させ、神経への圧迫を解除します。約70%の患者で5年以上効果が持続すると報告されています。
手術は全身麻酔で行い、耳の後ろに500円玉ほどの穴を開けてぶつかっている血管を動かします。
大体1〜2週間程度の入院が必要になります。
合併症としては、手術側の難聴、脳脊髄液漏出(再手術が必要)、脳梗塞、術後出血等が4%以下の割合で認め、手術後の顔面の感覚障害は約7%の割合で認められます。
最近では神経内視鏡というカメラを併用したり、内視鏡のみで手術する場合もありより低侵襲な手術が可能になっています。
ガンマナイフ治療
放射線を用いて三叉神経をピンポイントで焼く方法です。
フレームと呼ばれる器具で頭を固定し精密装置を用いてピンポイントにターゲットとなる部位に放射線を当てます。
治療時間は2〜3時間で、治療終了後には特別の処置は必要なく、その後の日常生活にも制限はありません。
ガンマナイフ治療後に十分な痛みの寛解が得られるまでには平均2ヶ月程度かかりますが、数年経過してから効果が出てくることもあります。
ガンマナイフ治療により十分痛みがとれた症例は、3年後で80%,5年60%と報告されており、やはりガンマナイフ治療においても、長期の経過観察にて他の治療法と同様に痛みの再燃の可能性は高くなります。
ガンマナイフ治療後の合併症として三叉神経障害、つまり顔面の知覚障害は約15%で起こり、日常生活に支障を来すほどの障害は約5%でした。
ニューロモデュレーション治療
ニューロモデュレーション治療は三叉神経や三叉神経へとつながる神経に対し微細な電気刺激を加えることで痛みを軽減する治療法です。海外では行われていますが、日本ではまだ保険適応となっていません。手術によって電極を埋め込んだりする必要があり体への負担はありますが、海外では一定の効果があることが示されており、今後日本でも使えるようになる日が来るかもしれません。
三叉神経痛と向き合うために
日常生活への影響とQOL
三叉神経痛は生命に関わる病気ではありませんが、日常動作の中で痛みが誘発されるため、生活の質を大きく損なう病気です。
早期診断と適切な治療により、痛みから解放される生活を取り戻すことが可能です。
早期受診と検査の重要性
重症化する前に、専門医による診断とMRI(Heavy T2)検査を受けることが早期発見につながります。当院では、豊富な経験と高精度MRIを用いて、三叉神経痛の的確な診断と治療提案を行っています。
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