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認知症とともに生きる社会への想い

[2025.07.28]

少し前の話になりますが、2024年1月「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行されました。

この法律の目的は、日本で高齢化が進む中、認知症の人が増えている現状を踏まえることです。認知症の人が尊厳を保持しつつ、希望を持って暮らせるようにするため、認知症に関する基本的な考え方を定めています。また、国や地方公共団体の責任を明確にし、認知症対策の計画を立てることも目的としています。

認知症をどのように捉え、どのような気持ちで認知症とともに生きていくか。
それは、私たち一人ひとりが自分のこととして考えていかなければならない大切な課題です。

支え合う関係性への気づき

私が大切にしているのは、「誰もが、支えるだけではなく、いずれ必ず支えられる側になる」という意識です。それは、イコール他人事ではないということ。この視点を持つことで、関わり方は変わっていきます。同じ人間として、お互いを尊重し合える関係性を築くことができるのです。

そして、誰かを支えることは、ときに大変だと感じることもあります。しかし、それだけではありません。ふと気づくと、自分自身も支えられ、何かを与えられ、成長していることに気づく瞬間があります。

患者さまの笑顔に癒されたり、ご家族様からの「ありがとう」の言葉に励まされたり、同僚との連携の中で新しい発見があったり。人と人とのつながりの中で生まれる温かさや学びは、何物にも代えがたいものであると感じています。

第26回日本認知症ケア学会大会での出会い

本年度の第26回日本認知症ケア学会大会では、「認知症とともに生きる人とともに創る」がテーマでした。

認知症とともに生きていく、その中で生まれる相互関係や、専門職としてのこれからの自分の役割を改めて考えるよい機会となりました。学会では多くの貴重な講演や発表がありましたが、その中でも特に心に残った講演のうちの1つを紹介いたします。

若年性認知症を患ったTさんとケアマネジャーYさんの関係性

ある講演では、若年性認知症を患ったTさんが、ケアマネージャーのYさんと一緒に登壇されていました。

若年性認知症とは、65歳未満で発症する認知症のことです。働き盛りの年代で発症するため、経済的な問題や家族の負担、社会的な孤立など、高齢期の認知症の課題に加えて、さらに特有の課題があります。

Tさんが、とても素敵な笑顔と暖かい大分訛りで「僕は人より少し先に認知症になっただけ。認知症も悪くないですよ。」と、明るく話す姿が印象的でした。

若年性認知症と診断された当初は、希望を失い、デイサービスに行っても一人でタバコを吸い、とても塞ぎ込んでいたそう。診断を受けた時の混乱や絶望感は、想像を絶するものだったでしょう。仕事を失い、将来への不安、家族への申し訳なさなど、様々な感情が渦巻いていたことと思います。

しかし、転機が訪れたそうです。自分より若い、同じ若年性認知症と診断を受けた方と出会い、「支えてあげたい」と思い、積極的に声をかけ、手を貸すようになったと伺いました。そして今では、認知症の診断を受けた方の相談員となり、「認知症になっても、どれだけ楽しい生活ができるか」を伝えていらっしゃるそうです。

この変化は、単に時間が解決したのではなく、人とのつながりの中で新しい役割や生きがいを見つけられたからこそ実現したのだと感じました。

専門職としての在り方を学ぶ

そして、ケアマネジャーのYさんも、Tさんの可能性を見極め、信じて、講演をはじめさまざまなことに一緒にチャレンジしているそうです。

認知症の症状や制約にのみ注目するのではなく、その人が持っている力や可能性に目を向け、それを引き出そうとする姿勢は、まさに私たちが学ぶべきものでした。

とてもユーモアがあり、Tさんとの掛け合いは息がぴったりで、まるで漫才のようでした。

専門職としての知識やアイデアを持ちながら、利用者様とともに歩み、楽しんでいるという空気が溢れていました。これこそが、認知症ケアの理想的な形なのかもしれません。

 

新たな関係性の発見

Tさんと同じ若年性認知症と診断を受けた仲間との関係、TさんとケアマネジャーのYさんとの関係。

そこには、支える・支えられるという一方通行の関係のみならず、ポジティブな相互関係がありました。

Tさんは支えられる側であると同時に、他の方を支える側でもあり、Yさんも専門的な支援を提供する側であると同時に、Tさんから多くのことを学び、成長している側でもあるのです。

この相互性こそが、認知症基本法が目指す「共生社会」の本質なのではないでしょうか。

辛い現実は確かにあるけれど、決してそれだけではなく、ともに生きていくことで、新たな関係性や新たな自分が見つかることがあります。悪いことばかりではないと心から思います。

専門職としての使命

そして、専門職である私たちのやるべきことは、認知症になった方、そしてその方とともに生きるご家族だけでなく、支援者や地域の皆さんが希望を持ち、その人らしく毎日を過ごせるよう、専門的な知識やアイディアを惜しみなく発揮して力になることだと、改めて感じ、身が引き締まりました。

皆様へのメッセージ

当院では、自費診療にてご家族のみでのご相談も承っております。

医学的な診断や治療だけでなく、日常生活に関するアドバイス、ご家族の心理的なサポート、社会資源のご紹介など、幅広く包括的な支援を大切にしています。

認知症かどうか心配」「症状が出始めてどうしたらよいかわからない」「対応に困っている」など、どんなお悩みでも、一人で抱え込まず、ぜひご相談ください。

スタッフ一同、心よりお待ちしております。

認知症ケア専門士/看護師 .T

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