脂質異常症/動脈硬化症
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動脈硬化とはなんですか?
血管は内膜・中膜・外膜の三層構造になっていて、動脈硬化とは血管の壁に脂質や脂質を取り込んだ細胞が溜まっていくことで、血管の壁が厚くなっていく状態です。
粥状動脈硬化の場合、はじめに脂質を取り込んだマクロファージや平滑筋細胞の集簇として血管内膜に形成されます。
“プラーク”と呼ばれるコレステロールに富む内膜肥厚巣が炎症を伴って徐々に進展し、内腔の狭小化や閉塞がもたらされていきます。
血管内腔の閉塞には繊維性皮膜の破綻によるプラーク破綻が関与しています。
脂質に富むプラークは、急性冠症候群の原因となる不安定なプラークです。
頸動脈におけるプラークの進展は、非心原性脳梗塞の原因にもなります。
粥状動脈硬化以外にも中膜硬化症性動脈硬化や細動脈硬化が存在します。
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動脈硬化の進行を予防するために重要なことはなんですか?
早期から脂質異常症の治療が重要です。
メタボリックシンドローム、喫煙、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病の管理を行います。
生活習慣の改善は薬物治療開始後も継続します。
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動脈硬化はどのような方法で検査をしますか?
以下のような検査を行います。
血管の形から評価する方法:超音波検査(頸動脈・大動脈・下肢動脈・腎動脈)、CT、MRI・MRA、血管造影検査血管の機能から評価する方法:ABI・TBI、baPWV、CAVI、血管内皮機能検査
当院で可能な検査:頸動脈エコー、CT検査、MRI・MRA検査、ABI、CAVI -
CAVI/ABIとはどのような検査ですか?
ベッドに横になって頂き、両腕・両足に血圧計を巻き、順番に血圧を測定する検査です。
所要時間は5〜10分程度です。
ABI(Ankle Brachial Index 足関節上腕血圧比)
上腕動脈の血圧に対する足関節レベルの血圧の比率を見ることで、足関節より中枢の主幹動脈の狭窄または閉塞性病変の存在と、側副血行路による代償の程度を示します。0.9以下は主観動脈の狭窄や閉塞、1.40より高値では高度石灰化の存在を疑います。
CAVI(Cardio-Ankle Vascular Index 心臓足首血管指数)
局所の動脈壁の固有の硬化度を表す指標。大動脈起始部から下肢足首までの動脈全体の弾性能を表します。
脳梗塞、心血管疾患、腎臓病、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム、などとの関連を示すエビデンスがあります。CAVI値が9以上の場合は動脈硬化が進んでいることを示唆します。 -
脂質異常症を治療するとどのような効果(意義)がありますか?
脂質異常症は動脈硬化性疾患の危険因子であり、その治療は極めて重要です。
高LDLコレステロール(高LDL-C)血症では酸化などにより編成したLDL由来のコレステロールが血管壁に蓄積して粥状動脈硬化を発症・進展させてしまいます。
HDLは血管壁に蓄積した過剰なコレステロールを取り出し、肝臓へ逆転送するため、粥状動脈硬化を抑制する作用を持ちます。
高中性脂肪血症ではコレステロールの代謝産物であるレムナントやsmall density LDLの増加や低HDLコレステロール(低HDL-C)血症を合併することが多く、粥状動脈硬化を促進させる可能性があります。
低HDL-C血症は高LDL-C血症とは独立して肝動脈疾患の発症リスクを増加させます。
HDL-Cを低下させてしまう要因として、遺伝的素因、肥満、運動不足、喫煙が知られています。
過剰のLDL、レムナント、small dense LDLなどの粥状動脈硬化を起こしやすいリピ蛋白は血管壁でマクロファージで取り込まれ、泡沫細胞形成から初期病変(脂肪線条)を形成します。さらに長期にわたるコレステロール蓄積、血管平滑起細胞の増殖、細胞外繊維組織の増生、石灰化などの因子が加わり、進行した粥状動脈硬化病変(粥腫)を形成します。
コレステロールに富む粥種は構造的にもろく(不安定プラーク)、破裂すると血栓を生じて血管が閉塞し、急性冠動脈症候群を発症させます。これをプラークの破綻と呼びます。
【動脈硬化性疾患の主要な危険因子】
〔高LDL-C血症、高TG血症、低HDL-C血症、加齢、高血圧、糖尿病・耐糖能異常、慢性腎臓病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴など〕
高LDL-C血症の治療は、粥腫のコレステロール蓄積を抑制するだけでなく、粥腫を覆う繊維性被膜を厚くさせ、動脈硬化性疾患の発症を抑制します。これをプラークの安定化と呼びます。
欧米の研究ではスタチンによりLDL-C約39mg/dlの低下ごとに主要冠動脈イベントは約24%、脳卒中イベントは約15%有意に抑制され、脳出血には影響がないことが示されました。
日本での研究ではLDL-C18%の低下で、冠動脈疾患は33%の低下を認めました。
糖尿病、慢性腎臓病、高血圧などの危険因子があったとしても脂質異常症に対する治療を行うことで冠動脈疾患や脳卒中の発症を抑制できることが示されています。
高TG血症では、どこまで中性脂肪を下げれば有意に動脈硬化性疾患の予防効果を示すかのエビデンスは十分ではありません。
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脂質異常症の検査はどのように行いますか?
採血検査を行います。
【血液検査をするにあたっての注意点】
最も正確に測るには10時間以上の絶食(お水やお茶などのカロリーのない水分摂取は可能)後の空腹時に行います。
スクリーニング目的の採血や随時中性脂肪を確認したい場合は絶食時間は不要です。
※採血前夜の飲酒は中性脂肪の上昇を遷延させることがあるので注意が必要です。
【測定する項目】・総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、HDL-C、LDL-C、non-HDL-C
※ LDL-Cは直接測定する方法とTC−HDL−TG /5(Friedewaldの式)から推定する方法があります。
・肝機能(AST, ALT, ChE, LDH, γGTP, ALP)
・腎機能(BUN, Cr, eGFR)
・糖尿病・耐糖能(血糖, HbA1c)
・尿検査(尿蛋白/尿中Alb)
・その他 尿酸, 末梢血血算, CK -
脂質異常症の診断基準は?
以下に示す脂質異常症の診断基準はスクリーニングのための基準であり、“将来、動脈硬化性疾患、特に冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞の発症を促進させる危険性の高い脂質レベル”として設定されているものであり、薬物療法を開始するための値ではありません。
LDL コレステロール 140mg/dl以上 高LDLコレステロール血症 120~139/mg/dl以上 境界域高コレステロール血症 HDL コレステロール 40mg/dl未満 低HDLコレステロール血症 トリグリセリド(中性脂肪) 150mg/dl以上(空腹時採血) 高トリグリセライド血症 175mg/dl以上(随時採血) Non-HDLコレステロール 170mg/dl以上 高non-HDLコレステロール血症 150~169mg/dl 境界域高non-HDLコレステロール血症 -
脂質異常症にはどのようなタイプ(種類)がありますか?
脂質異常症が認められた場合には以下の鑑別を行います。
原発性高脂血症・続発性高脂血症・原発性低脂血症・続発性低脂血症
【原発性高脂血症】
♦ 家族性高コレステロール血症(FH) 約300人に1人
♦ そのほかの原発性脂質異常症【続発性高脂血症】
続発性脂質異常症は、高コレステロール血症と高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)に分けられます。
よくみられる基礎疾患としては、以下の表のようなものがあり、鑑別診断が必要です。
続発性脂質異常症は、原因を治療もしくは取り除くことにより多くが改善します。
♦ 肥満、アルコール多飲、糖尿病・糖代謝異常、甲状腺機能低下症、腎障害(ネフローゼ)、肝胆道系疾患(原発性胆汁性胆管炎、閉塞性黄疸)
♦ 下垂体・副腎系の内分泌疾患(クッシング症候群、褐色細胞腫)
♦ 膠原病
♦ 神経性食欲不振症
♦ 薬剤(利尿薬・β遮断薬・コルチコステロイド・経口避妊薬・サイクロスポリンなど)
続発性脂質異常症の分類を以下の表でご確認ください。高コレステロール血症 高トリグリセライド(中性脂肪)血症 甲状腺機能低下症 飲酒 ネフローゼ症候群 過食/運動不足 原発性胆汁性胆管炎 肥満 閉塞性黄疸 糖尿病 糖尿病 妊娠 Cushing症候群 腎疾患(ネフローゼ症候群・慢性腎臓病CDK) 褐色細胞腫 自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス) 神経性食欲不振症 神経性食欲不振症、糖原病、リポジストロフィー、Weber-Christian病、多発性骨髄腫、血清蛋白異常症、リンパ増殖性疾患、特発性血小板減少性紫斑病、アミロイドーシス、サルコイドーシスなど
薬剤
(利尿剤・β遮断薬・コルチコステロイド・経口避妊薬・サイクロスポリンなど)
薬剤
(利尿薬、非選択制β遮断薬、陰イオン交換樹脂、コルチコステロイド、エストロゲン、経口避妊薬、クロミフェン、タモキシフェン、テストステロン、レチのいど、免疫抑制剤、抗がん剤、抗ウィルス薬、抗精神病薬、抗うつ薬、SSRI、抗痙攣薬、麻酔薬、痤瘡治療薬など)【原発性低脂血症】
♦無βリポ蛋白血症、家族性低βリポ蛋白血症、カイロミクロン停滞症、スミス・レムリ・オピッツ症候群、タンジール病、アポリポ蛋白A-I遺伝子異常症、家族性LCAT欠損症など。【続発性低脂血症】
♦ LDL-C低下:重症肝疾患、甲状腺機能亢進症、副腎不全、吸収不良、栄養不良、悪性腫瘍、骨髄増殖性疾患、慢性感染症、慢性炎症性疾患、ゴーシェ病、薬剤
♦ HDL-C低下:喫煙、肥満、2型糖尿病、慢性児不全、栄養不良、ゴーシェ病、薬剤(蛋白同化ステロイド、β遮断薬、利尿薬、プロブコール) -
脂質異常症の治療目標値はありますか?
脂質異常症は患者様ごとの背景(性別・年齢区分・危険因子の数・程度)などにより目標値が変わります。
つまり動脈硬化性疾患の発症リスクが高い場合には積極的な治療を行い、リスクの低い例には必要以上に治療を行いません。
リスクに基づくカテゴリー分類は以下のフローチャートに基づいて行われます。
リスク評価については久山町スコアにより3つの群に分類され、それぞれのリスク群によってLDL-C、Non-HDL-C、TG、HLD-Cの管理目標値が設定されます。
LDL-Cの管理目標は、一次予防においては低リスク群は160mg/dl未満、中リスク群は140mg/dl未満、高リスク群は120mg/dl1未満です。一次予防で糖尿病は自動的に高リスク群になりますが、PAD、細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)合併時、喫煙ありの糖尿病の管理目標は100mg/dl未満となります。
二次予防のLDL-Cの管理目標は100mg/dl未満です。ただし二次予防対象者でFHや急性冠症候群、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血先生脳梗塞を合併している場合はLDL-Cの管理目標は70mg/dl未満となります。
Non-HDL-Cの管理目標は、それぞれのLDL-C管理目標値に30mg/dlを加えた値となり、LDL-Cの管理目標値を達成した後の二次目標となります。
リスク管理区分に関わらず、TGの管理目標値は空腹時150mg/dl未満、随時175mg/dl未満となります。
同じくリスク管理区分に関わらず、HDL-Cの管理目標値は40mg/dl以上です。
いずれのカテゴリーにおいても管理目標達成の基本はあくまでも生活習慣の改善です。
一次予防のいずれの区分であってもLDL-C 180mg/dl以上が持続する場合は薬物療法の適応を考慮することとなっています。
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