糖尿病
糖尿病は、単なる「血糖値の病気」ではありません。
実は、脳卒中や認知症といった脳の病気とも深い関係があることが、これまでの多くの研究やガイドラインで明らかになっています。
ここでは、糖尿病と脳の健康との関係、そして大切な予防策についてご紹介します。
糖尿病とは
糖尿病は、血液中の血糖値(グルコース)が慢性的に高くなる病気です。進行すると、心臓、脳、腎臓、目、神経など、全身にさまざまな合併症を引き起こすため、早期発見と継続的な管理が重要です。
糖尿病の種類
- 1型糖尿病:自己免疫反応などにより、インスリンをつくる膵臓の細胞が破壊され、インスリンがほとんど出なくなるタイプ。小児から若年層に多い。
- 2型糖尿病:生活習慣や遺伝的要因によるインスリン抵抗性・分泌低下。日本人の糖尿病の大部分を占める。
- その他:妊娠糖尿病や特定の病気・薬剤による二次性糖尿病。
糖尿病の診断基準(日本糖尿病学会ガイドラインより)
検査項目 | 基準値 |
---|---|
空腹時血糖値 | 126mg/dL以上 |
随時血糖値 | 200mg/dL以上 |
75gOGTT 2時間値 | 200mg/dL以上 |
HbA1c | 6.5%以上 |
※診断は原則として、別の日に複数回検査して確認します。
糖尿病の症状
初期には症状が出ないことが多いですが、進行すると以下のような症状が現れることがあります。
- のどの渇き・多尿
- 体重減少
- 疲れやすい・だるい
- 視力低下
- 手足のしびれ
糖尿病による合併症
高血糖状態が続くと、血管が傷つき、さまざまな合併症を引き起こします。
- 網膜症(失明リスク)
- 腎症(人工透析の原因)
- 神経障害(しびれ、感覚異常)
- 心筋梗塞・脳梗塞(動脈硬化による血管障害)
糖尿病の治療方法
1.生活習慣の改善
- 食事療法: 栄養バランスの取れた食事を、適切なカロリーで規則正しくとります。
- 運動療法: ウォーキングなどの有酸素運動を習慣化し、インスリンの効果を高めます。
- 体重管理: 特に肥満がある場合、減量が大きな効果をもたらします。
2.薬物療法
生活習慣の改善だけでは血糖コントロールが困難な場合、内服薬やインスリン注射を使用します。
薬剤分類 | 代表薬剤 |
---|---|
インスリン分泌促進薬 | SU薬、DPP-4阻害薬など |
インスリン抵抗性改善薬 | ビグアナイド薬 |
糖の排出を促す薬 | SGLT2阻害薬 |
インスリン補充療法 | インスリン注射 |
患者さま一人ひとりの状態に合わせて治療を組み合わせます。
糖尿病の予防と早期発見
糖尿病は発症してからではなく、「発症させない」ための予防が大切です。
- バランスの良い食事を心がける
- 適度な運動を継続する
- 適正体重を保つ
- 定期的な健康診断を受ける
- 家族に糖尿病患者がいる方は特に注意
早期発見・早期治療によって、糖尿病はコントロール可能な病気です。少しでも気になる症状があれば、お早めにご相談ください。
糖尿病と脳の病気との関連性
1. 脳卒中リスクの増加
糖尿病があると、脳の血管が傷つきやすくなり、脳梗塞や脳出血のリスクが約2〜4倍に高まることが知られています。
(参考文献:Emerging Risk Factors Collaboration, 2010年/日本脳卒中学会ガイドライン2021)
- アテローム血栓性脳梗塞(大きな血管が詰まるタイプ)
- ラクナ梗塞(小さな血管が詰まるタイプ)
この二つが特に増えやすいとされています。
糖尿病による高血糖状態は、血管内皮を傷つけ、動脈硬化を進行させるため、これらの脳血管障害を引き起こしやすくなるのです。
2. 認知症リスクの増加
さらに近年、糖尿病と認知症の発症リスクとの関連も注目されています。
日本老年医学会のガイドラインや、国際的な研究(Hisayama Studyなど)によれば、糖尿病がある人は、以下の認知症のリスクが上がります。
- アルツハイマー型認知症リスク:約1.5倍
- 脳血管性認知症リスク:約2倍
慢性的な高血糖により、脳内の微小血管障害や慢性炎症が進み、神経細胞の損傷につながるためと考えられています。
3. その他の脳機能低下
糖尿病患者さまでは、脳の萎縮や微小出血が通常より早く進むケースもあります。
これが、集中力や記憶力の低下といった、いわゆる「脳の老化」を早める要因になることも指摘されています。
(参考文献:ARIC Study, Diabetes Care 2009年/日本神経学会ガイドライン2021)
脳の病気を防ぐためにできること
糖尿病と脳の病気との関連性がこれだけ強いことを踏まえ、「血糖値の管理」と「脳の健康管理」は一体で考える必要があるといえます。
血糖コントロールの徹底
日本糖尿病学会ガイドライン2023によると、HbA1cは7.0%未満を目標にすることが推奨されています(個々の状況に応じ調整の必要あり)。
- 血糖コントロールが良好な人は、脳卒中や認知症のリスクが大きく低下することが知られています。
- 急激な血糖変動(高血糖・低血糖の繰り返し)も避けることが重要です。
血圧・脂質の管理
- 高血圧は脳卒中の最大リスク因子です。 糖尿病がある方は、さらに厳格な血圧管理(目標:130/80mmHg未満)が推奨されています。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)も、100mg/dL未満にコントロールすることが推奨されています(糖尿病合併症がある場合はさらに厳格)。
(参考:日本高血圧学会ガイドライン2024/日本動脈硬化学会ガイドライン2022)
禁煙
喫煙は、血管障害をさらに悪化させます。糖尿病患者さまでは、脳卒中リスクがさらに上がるため、禁煙は最重要の対策です。
適度な運動
- 有酸素運動(ウォーキング、サイクリングなど)を週150分以上。
- 筋力トレーニングも週2回以上。
運動は血糖値の改善だけでなく、脳の血流を保ち、認知機能の低下も防ぐ効果があります。
(参考:国立循環器病研究センター推奨プログラム)
食事の見直し
- 野菜・魚・大豆製品中心のバランスの取れた食事
- 糖分や飽和脂肪酸を控えめに
- 塩分6g未満/日
- 地中海式食事法も推奨
ねりま脳神経外科でのサポート
- 脳MRI/MRAで脳血管の状態を早期に評価
- 糖尿病管理に基づく脳卒中・認知症リスクの総合チェック
- 生活習慣病管理指導
- 内科・糖尿病専門医との連携
糖尿病のコントロールと脳の健康は密接に関係しています。未来の健康を守るため、ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献・ガイドライン
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2023』
- 日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021』
- 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2021』
- Emerging Risk Factors Collaboration, Lancet 2010
- ARIC Study, Diabetes Care 2009
- Hisayama Study (久山町研究)
文責:ねりま脳神経外科 院長 井上剛(日本脳神経外科学会専門医、日本頭痛学会専門医)
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